
花嫌いの女の子が働くことになったのは、
生意気な九官鳥と「植物馬鹿」な男性がいる
小さな植物園で――――
「よ、よろしくお願いします。あの……私、植物の知識なんて、あまりないのですが」
「大丈夫です。花が好きであれば。
花澤咲良さんって、素敵なお名前ですね。花好きのご両親がつけてくれた名前なのかな?」
その言葉を聞いた瞬間、咲良の胸に冷たい刃が落ちてきた。
「私の名前で……名前で配属が決まったのですか?」
咲良の心の内など知らない宇喜多が、うっとりと空を見上げて続ける。
「美しい名前を見た瞬間、ピンと来たんです。きっと花澤さんは、この植物園に幸をもたらす女神になってくれると思ったんです」
花と人と思い出が紡ぐ、やさしく静かな物語
花澤咲良は、絶望していた。高校に入学してすぐ始めた公務員試験の勉強。周りに笑われながらも、一日も早く「安定した人生」が欲しい咲良はくじけなかった。努力は実り、高校卒業、晴れて夢の公務員になった咲良。しかし、喜びも束の間、なんと配属先は県の公園にある植物園だったのだ。「花が大嫌い」な咲良にとっては最悪の展開だ。重い足を引きずりながら植物園へ向かった咲良を出迎えたのは、満開の藤棚とお喋りな九官鳥、そして花をこよなく愛する男性・宇喜多で……。花嫌いな少女と風変わりな植物園が紡ぐ、しずかでやさしい物語。