故・ケネディ大統領にはあった。 小泉首相には、まだ、ない。 前世紀、1960年代。宇宙開発の分野でソ連に遅れをとりつつあったアメリカは、ケネディ大統領による強力な指導のもと『アポロ計画』を遂行しました。この計画の背景には国威発揚や利権など様々な思惑が絡んでいたとも言われていますが、月に人間を送り込もうという、それまで絶対に「ありえない」とされていた夢への挑戦が、同時に多くの人々を勇気づけ、生きる希望を与える結果になりました。 21世紀。政治システムや経済システムと綿密に連動して、再び「科学の力」が、人類の直面する様々な課題を克服し、人類の進むべき新たな道を切り開いていく時代が到来しています。 翻って、日本の現状を見渡すと、「改革」の旗印のもとに、不良債権処理、失業対策、国家財政の緊縮化などに汲々としている段階です。小泉首相以下日本政府が繰り返し訴えているように、確かにこれらの対策に「痛み」が伴うのは避けられないことでしょう。 しかし考えてみてください。本来「改革」とは、それによってかなえられるべき「夢」や「理想」があってこそ、初めて「改革」と呼べるのではないでしょうか。 さらに踏み込んで言えば、技術的にも経済的にも優れた潜在力を湛えながら、これからの目標をなかなか見つけられずに立ちすくんでいるこの国・日本にこそ、かつての『アポロ計画』にあたる独創的かつ夢に満ちた国家規模のプロジェクト、この国(ひいては人類)の科学文化の発展および国民ひとりひとりの生きがいに大いなる貢献を果たす科学プロジェクトが必要であると思いませんか。 ケネディ大統領は、当時のアメリカを世界のリーダーとして決定づけ、力強く邁進させんがために、同様のことを本能的に、かつ綿密な考察のもとに確信していたはずです。 そう、今こそ日本の指導者に求められるのは、「どれだけ正しい対策案を提示できるか」だけではない、それ以上に「どれだけ魅力的な夢を見せてくれるか」ということなのです。例えそれが一見馬鹿げた、途方もない夢であってもです。「正しいか、正しくないか」という課題解決型ではなく、「魅力的か、魅力的でないか」という発明家型発想の先にしか生まれない求心力です。 例えば「タイムマシン」、つまり時間と空間を自由に行き来できるシステムの発明は、「宇宙旅行」とならんで、これまで長い間、実にたくさんの人々が見つづけてきた「永遠の夢」です。現在も多くの科学者の間で、「ワームホール理論」「宇宙ひも理論」「時間順序保護仮説」など、理論レベルでの議論が盛んに交わされています。 タイムマシンを実現する。まさしく一見馬鹿げた、途方もない夢物語です。しかし、かつてたった30年ほどの期間で、敗戦の焼け野原から世界第2位の経済力を有するに至るという途方もない夢物語を実現してのけたのも、言うまでもなくこの日本という国なのです。 繰り返します。今こそ日本の指導者に求められるのは、「どれだけ正しい対策案を提示できるか」だけではなく、「どれだけ魅力的な夢を見せてくれるか」という発明家型の求心力なのです。 小泉首相が、多くの人々を勇気づけ、生きる希望を与えてくれる21世紀版・日本のケネディになれるのか。それとも単なる対策屋で終わるのか。この場を使って私たちが提案したことについての首相本人のお考えを、是非ともお聞かせ願いたいところです。 今世紀。日本はきっと「希望」と「滅亡」の、追いかけっこになる。 週刊宝島/宝島社 www.takarajimasha.co.jp/dream ★9月11日の日本経済新聞朝刊に掲載。 |