田舎不動産の取引では都会に比べて法規制は緩やかだ。 それでも農地法をはじめ、さまざまな法律が関係してくる。 田舎暮らしを始めようと思えば、そういった法律が 絡む不動産取引 という世界に足を踏み入れることになる。 ここでは土地や家の取引をするときに、よく問題となりそ うな事例と それに関連する法律や慣行についてみてみよう。 最低限これらのことに留意しておくだけでも、 いざという ときに役立つはず。

 K県内で相場よりもかなり安い価格で150坪の土地を買ったが、あとで「市街化調 整区域」であることがわかった。
【解説】
計画的な都市づくりを進めていくため基本的なルールを定めているのが、「都市計 画法」という法律だ。都市計画区域には未線引きのものと、「市街化区域」と「市街 化調整区域」に線引きされたものがある。未線引きのものであれば、問題はほとんど ないが、市街化調整区域の場合は問題になる。そもそも市街化調整区域というのは、 当面の間は市街化するのを見合わせようとしている地域だ。だから家を建てたりする 行為は原則としてできないことになっている。 こういった地域は開発行為が規制されているため土地相場は安く、おまけに豊かな 自然環境が残っているものだ。しかし、それにつられてうっかり市街化調整区域内の 土地を買ってしまったら、とんでもないことになる。都市計画区域外であればもちろ ん家は建てられるし、取引しようと考えている土地で家が建てられるかどうか確認す るには、市町村役場へ行って都市計画図を閲覧すればいい。

 将来キャンプ場経営をしたいと、3500坪の山林を買う契約を結んだが、事前に役所 の許可を取るのを忘れた。
【解説】
面積の大きな土地の取引をする場合、国土利用計画法という法律が関係してくる。 田舎物件の多い都市計画区域外では3000坪以上の土地を売買するにあたり、契約後2 週間以内に自治体に届け出をしなければならないとされている。以前は契約の6週間 前までに自治体に届け出なければならなかったのだが、法改正されて、事後届け出で すむようになっている。もともと国土利用計画法は1980年代後半から始まった地価高騰の抑制と投機的取引 の防止を目的にたびたび改正されてきた。しかしバブル崩壊後は地価が下がり続けて いるため、改正のたびに規制が緩和される傾向が続いている。  ただし契約後2週間が経っても届け出をしないままでいると、6カ月以下の懲役また は100万円以下の罰金が課せられる。

  2反の山林を買った。数年後そこに家を建てようと思い、確認のために役場へ行っ たら、農地でないのに一帯が「農振」地域に指定されているから、家は建てられない と言われた。
【解説】
田舎物件には田や畑など農地が含まれている場合が少なくない。農地を手に入れて 宅地に変え、家を建てるためには、農地法という法律の規制があるため、地元の農業 委員会に申請して許可を受けなければならないことになっている。ここまではよく知 られている。  しかし、田舎物件の取引では農地法のほかに「農振法」という法律も関係してくる ことがある。農振法というのは「農業振興地域の整備に関する法律」を略したもの だ。補助金を使って整備した農地や、これから農業を振興していこうとする農地など が農振地域に指定されると、農地以外への転用が認められなくなると定められてい る。「農地」ではなく「農地など」と書いてあることに注意が必要で、山林や原野な どが農振地域に指定されている場合がじつはあるのだ。買った山林や原野が農振地域 に指定されていたら家は建てられないことになる。 農地法に留意する人は多いが、農振法については案外盲点になっていて、うっかり 規制のかかった山林原野を買ってしまう人が現実にいる。どうしても家を建てたい場 合、役場へ行って市町村長宛てに農振法適用の除外申請を提出する。例外的にすぐ許 可が下りることもあるが、補助金を使っているだけに宅地への転用はなかなか認めら れないのが現実だ。農振法は非常にやっかいな法律なので、農振法の規制がかかって いる土地には安易に手を出さないほうが無難である。

 もとは畑だった約500坪の土地を買い、実際に土地の面積を測ってみたところ、登 記簿に記載されている面積よりも小さかった。
【解説】
まだ国土調査がすんでいない田舎の農村では、登記簿に記載されている土地の面積 と、実際の土地の面積とがくい違うことが珍しくない。これは明治時代に初めて登記 簿を作成した当時は、まだ測量技術が未発達だったことと、税金を安くするために地 主が面積を少なく申告したからだ。  登記簿に記載されている面積よりも大きい場合を「縄延び」、小さい場合を「縄縮 み」という。田舎の山林などの取引では縄延びしている場合が圧倒的に多いが、畑な どの取引では縄縮みしているケースもないわけではない。  きちんと正確な面積を出してからその土地の取引に入るのが本来望ましいわけだ が、測量にはお金がかかる。広い山林などで測量をしたら売買代金よりも測量代のほ うが高くついてしまうため、現実には境界確認だけで取引を行っているのが普通だ。 では仮に実測してみて登記簿面積より小さかったら、売主からその差額分を返還し てもらうことはできるのか? 事前に契約書でそういう趣旨の取り決めをしておかな ければできないことになっている。というのも登記簿の記載面積はあくまでも補足的 なもので、記載どおりの面積があることを保証したものではないとされているからだ。


 道路から離れたところにある150坪の土地を買い、家を建てることにした。水道や電 気を引くためには隣地を通さなければならないが、隣地所有者の承諾がいまだに得ら れない。
【解説】
都市計画区域内では建築基準法の規定により、幅4mの道路に2m以上接していない と家が建てられないことになっている。しかし田舎物件が多い都市計画区域外ではそ ういった規制はない。そのため道路から離れた土地を買って家を建ててもかまわない わけだ。  家の周囲がすべて他人の土地に囲まれ袋地になっているとき、民法は他人の土地を 通って道路に出ることができるとしている。社会的見地から見て当然の結論だが、問 題は水道や電気を引くために隣地を通さなければならないときだ。電気や電話を引く ために電柱を建てる、水道の配管を通すなどの工事が隣地で必要になってくる。その 際、承諾が得られないときはどうなるのだろうか? 不動産取引に関する法律にはこ ういった際の規定がない。  しかし、電気や水道などいわゆるライフラインはそれが確保できなければ生活その ものができないことから、裁判の判例では隣地所有者の承諾が得られない場合でも、 他人の土地を使用することができるとしている。実際には多少お金を包むなどすれ ば、隣地の所有者がいじわるして使用を妨害するケースはまずないとは思うが、最悪 そういう事態になった場合でもあきらめることはない。
 
*「田舎暮らしの本」2000年4月号より引用