アイデアの源泉は圧倒的なインプット
本と映画に囲まれた学生時代
――アイデアが尽きないのはどうしてなのでしょうか。
やっぱりインプットの量でしょうね。ほぼ毎日映画を観ますし、中学時代から本もずっと読んでいます。その積み重ねがあるからこそ、困ったときもなんとか物語を引っ張り出せる。編集者に「詰まった」と迷惑をかけたことは一度もありません。両親は呉服屋を経営していて忙しかったのですが、本だけは買ってくれました。中学くらいから一日一冊は読書を続け、世界の推理小説シリーズから一般小説、さらに図書館の分類コードを順番に読破。そうしているうちに図書館に所蔵されている本は読んでしまって、次は図鑑。そうやってずっと読んできたから、変な知識ばかりつくんですよ(笑)。映画は年間で300本近く観ます。ジャンルも問いません。その日に観る映画は、目をつむって適当に棚に手を伸ばして決めます(笑)。サスペンスもあれば、ラブコメやミュージカル、アニメも観る。都度タイトルは買い足しています。観ているうちに、自然と引き出しがポンッと開いて、プロットが浮かぶんです。内容に関係なく、スイッチを入れる儀式が映画を観る行為なんですよね。そのため、シアタールームの音響などにはこだわりました。スピーカーはすべてアメリカのJBL製です。観ている映画と書いている小説の内容はまったく別ですよ。『連続殺人鬼カエル男』を思いついたときは、たしか『小さな恋のメロディ』を観ていました。参考にすることがあるとすれば、海外を舞台にした作品。たとえばイタリアを描きたかったらダン・ブラウン原作の『天使と悪魔』を観て風景を描写する。『いつまでもショパン』の執筆中に、ポーランドへ行きたいと言ったら、編集担当さんに予算がありませんと言われて(笑)。代わりに旅行ビデオを送ってきてくれたことがきっかけになりました。
――シアタールームにこもる時間は決まっていますか?
特に決まっていませんよ。家内が寝静まった深夜や明け方もありますから、余計防音には気を遣っています。『プライベート・ライアン』を大音量で観ても問題ありません。基本、寝る時間も決まっていません。ちなみに今日は真夜中の2時に起きて、小説を書き続けていました。書斎自体はとても地味な部屋ですよ。
“売れる小説を書くこと”が使命
自分のための小説は書かない
――時事問題から着想することもありますか?
『いまこそガーシュウィン』では大統領暗殺事件を題材にしましたが、ちょうどトランプ大統領が襲撃されました。『総理にされた男 第二次内閣』刊行時は、総裁選の真っ最中。たくさん書いていると、なぜか現実が作品に寄ってくるんです。ノストラダムスの予言と同じで、不思議ですよね。次作『とどけチャイコフスキー』ではロシアとウクライナをテーマにしました。チャイコフスキーはロシア人ですが、祖父はウクライナ育ちで、代表曲の多くはウクライナで作られています。ピアノ協奏曲第1番は国歌のように扱われているほど。ロシアの英雄とされながら、その源泉はウクライナにある――そんな歴史的背景から、音楽が世界にどれだけ抗えるかを描きつつ、一条の光明が射す物語にしました。
――作品を書く上で一番大事にしていることはなんですか?
「誰のために書くか」です。僕は自分のためには書きません。思想を盛り込むこともないですね。常に読者に楽しんでもらうために書いていますし、出版社に利益をもたらすことも自分の役割だと考えています。売れなければ、新しい才能も発掘できませんから。恩返しというと口幅ったい言い方になってしまいますが、今の立場では“売れる小説を書くこと”が使命だと思っています。ただ、売れるといっても媚びるのとは違います。読者はとても敏感ですから、面白い内容であることは徹底しています。
デビュー以来、休まず執筆を続ける
バイタリティの源とは
――かなりハードな執筆生活ですね。体調管理はどうされていますか?
正直疲れていると思いますが、誤魔化しています(笑)。デビュー以来、丸一日休んだことがありません。原稿を書かない日はないんです。旅先でも書き続けています。僕が大賞を取ったときに、涙をのんだ方が何人もいるわけです。僕がずっと書き続けていないと、その方たちや選んでいただいた方に申し訳ない。だからせめて映画を観たり、音楽を聴いたりするとき、最近は疲労回復をサポートしてくれるリカバリープロラボのウェアを愛用しています。これが本当に助かっていますよ。長時間座りっぱなしでも体が軽く感じられるんです。休む暇がほとんどない生活なので、こういうアイテムは作家にとって欠かせない味方ですね。
中山七里(なかやま・しちり)
作家
1961年、岐阜県生まれ。第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2010年に『さよならドビュッシー』でデビュー。他の著書に『おやすみラフマニノフ』『連続殺人鬼カエル男』『護られなかった者たちへ』(以上、宝島社)、『能面検事』(光文社)など多数。
Official Website
https://nakayama-shichiri.com/
※記事の内容は取材当時のものです

