「朝鮮総聯」は、長らく謎の多い不可触(アンタッチャブル)な組織とされてきました。部分的に語られたり、事件が起こるとその際に問題になる程度で、全体 像を知るすべのなかった組織でした。つまり、これまでは日本人はむろん在日韓国・朝鮮人でさえ、きちんとした実像として「朝鮮総聯」を捉えられる書物を読 むことはできなかったのです。私は、2002年「9.17」(金小泉・日朝会談)を契機に、その「朝鮮総聯」の全貌を歴史的かつ構造的に解明し、あるべき 姿を訴えるべき時がきたと考えるにいたりました。
1959年末から始まった在日朝鮮人の北朝鮮への帰国をとらえ、金日成は彼らを「人質」にして「朝鮮総聯」をコントロールしていきました。そしてついには、日本国内に自分たちの手足となる組織につくり変えてしまったのです。朝鮮総聯を日本へ「主体思想」「工作員」「麻薬」の類いを注ぐパイプ役に仕立てる 一方で、「金」と「技術」と「人力」を吸い取る役目も押しつけてきました。このようなやり方に対し、心ある者は激しく反対しましたが、衆寡敵せず、志を遂げることなくついえ、ある者は廃人となり、ある者は自暴自棄になったりしたのでした。
本書の執筆にあたっては、まずもってわかりやすい朝鮮総聯通史とでも言うべき章を中心に、長い間見続けてきた朝鮮総聯の正体を裏面史を含めて解き明かす心づもりで取材を進めました。時にして見かける関連ニュースや、唐突に起きる北朝鮮がらみの事件がどのような背景で朝鮮総聯に結びつくのか、そうした面に 注意をはらって記述しました。ですから、読者がこれまで見聞きした切れ切れのニュースが、どういう背景のもとで起こってきたのか、その全体像や仕組みに合 点がいくはずです。
バブル崩壊につづき2002年の「9・17」以降、ここにきて朝鮮総聯の伏魔殿はついに破れつつあります。朝鮮総聯に属する民族学校が主張する「大学受 験資格問題」についても、それなりに正しい面はありますが、しかし自らの問題を棚にあげにして論じてはならない問題でもあります。例えば、日本社会を「敵区」と規定するのはやめ、もっと開かれた、民主的な学園にすれば、こんな問題はすぐに解決するはずなのです。 金昌烈
北朝鮮とは相対的に距離をおき、これまでの積年の過ちを反省し、在日同胞の現実を見据えた本来あるべき姿の組織に立ち帰るといった方向に路線転換すれば、甦る可能性は大いにあると私は考えます。
本書が、在日韓国・朝鮮人はもとより、日本と朝鮮半島に横たわる問題を憂い、お互いの友好を考える人たちのための必読書となることを望んでいます。