柔らかで若い私の胸を
楮の綱が白いように
白い私の腕をそうっと叩き
叩いていとおしがり
玉のような手を
差し交わして枕にし
脚をのびのびと伸ばして
おやすみなさい
おいしいお酒を めしあがれ
『古事記』
「ゆったりと脚を伸ばして寝るようにと誘うスセリビメ」――現代語訳より――
格調が高くて難解、というイメージが強い「日本古典文学」ですが、本当は大胆な性描写に彩られた、まことにセクシーな世界でもあります。各地の神社にある御神体が陽石や陰石であるのは、生命の根源である性器には霊力があると信じられていたからで、性についての関心は、今も昔も変わりません。『古事記』をはじめ、性にまつわる逸話はあまり紹介されてきませんでしたが、おおらかで前向きに語られるエピソードは、古典文学にもけっこう登場します。知的ながらも官能的な、古典を気軽に面白く楽しめる一冊です。
目次
- はじめに
Ⅰ 古事記
1 国土を生むために結婚するイザナキとイザナミ
2 とつぎの道を鶺鴒に学ぶイザナキとイザナミ
3 死んだイザナミを追って黄泉の国に行ったイザナキ
4 黄泉比良坂の大岩を挟んで対峙するイザナキとイザナミ
5 天の岩屋に隠れたアマテラス
…ほか
歌のあれこれ(1)
Ⅱ 日本霊異記 今昔物語集
1 僧への侮辱と邪淫により蟻に嚙まれて死んだ男
2 大蛇に犯され薬汁の力で生き返ったが、再度犯されて死んだ女
3 吉祥天女の塑像に恋し、夢で交わった男
4 雨を避けて堂にこもり淫行に及んで即死した写経師
5 好色な医師の下心に乗じて治療を受けて逃げた女
…ほか
歌のあれこれ(2)
Ⅲ 古今著聞集
1 「こもちをまきかけて候へば」を誤読された蒔絵師
2 名器の持ち主と聞く筑紫の女との共寝を願った神官
3 女房の部屋で尿を漏らした法師
4 失われた男根を悼んで女陰に喪服を着せた妻
5 身代わりにされ、犯したと疑われた鋳物師
…ほか
Ⅳ 宇治拾遺物語
1 妻を犯された鋳物師に額を割られた山伏
2 「かはつるみ」も破戒になるのかと悩む僧
3 逢い引きの場でのおならに無常を感じた大納言
4 ことに及ぼうとして醜態をさらした僧
歌のあれこれ(3)
Ⅴ 沙石集 発心集
1 若い妻の尼に殺されようとした上人
2 恋い焦がれて蛇になった娘
3 娘に対する嫉妬から手の指が蛇になった母
4 娘を蛇に差し出そうとした継母
5 人妻を犯し、許されたが、仲間の蛇にかみ殺された蛇
…ほか
歌のあれこれ(4)